2026/01/30 11:26

粉引  
やさしさを、重ねた白  
田中恒子の視点から
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朝の光が、
カーテン越しにやわらかく差し込む時間。

まだ頭も心も、
完全には目覚めきっていないけれど、
あたたかい飲みものを注ぐと、
自然と、呼吸が整っていきます。

粉引の器は、
そんな静かな始まりの時間に、
よく似合う器だと感じています。

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粉引は、
焼締と同じく、
土の表情を大切にした器です。

素地となる土のうえに、
白い化粧土を掛け、
そのまま焼き上げることで、
土の持つ力強さと、
やわらかな白が重なり合います。

白といっても、
均一で、整いすぎた白ではありません。

ところどころに透ける土の色。
焼成によって生まれる、
淡いムラや揺らぎ。

その曖昧さが、
粉引ならではの、
あたたかな表情をつくり出しています。

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粉引の器には、
使い始めてから、
細かな「貫入」と呼ばれる線が
現れてくることがあります。

土と化粧土、釉薬の伸び方の違いから生まれるもので、
私はそれを、器が息づいている印のように感じています。

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使い重ねるうちに、
その線に、
お茶や料理の色がほんのりと入り、
器は、少しずつ表情を変えていきます。

新品のままの白ではなく、
時間を重ねた白。

その人の暮らしが映り込んだ、
ひとつの景色へと育っていく。
それもまた、粉引の魅力のひとつです。

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お使いいただく前に、
一度、水にくぐらせてから使う。
使い終わったら、
やさしく洗い、よく乾かす。

ほんの少し、
器に目を向けるだけで、
粉引は、安心して、
長く使っていただけます。

特別なお手入れは、
必要ありません。

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手に取ると、
ふっと力が抜けるような感覚。

ころんとしたかたち。
指に沿う、なだらかな丸み。

焼締の持つ凛とした緊張感とは違い、
粉引は、
包み込むようなやさしさを持っています。

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粉引は、
完成された器ではなく、
暮らしのなかで育つ器。

使う人の時間が重なり、
その人らしい表情へと
変わっていきます。

焼締が、
土の格好よさを伝える器だとしたら、
粉引は、
その隣で、
そっと寄り添う存在。

似ているようで、
まったく違う個性を持った、
自然な器です。

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粉引は、
頑張らない日の味方。

気取らず、
無理をせず、
ただ、心地よく。

毎日の暮らしに、
静かなあたたかさを添えてくれる器です。

今日も、
明日も、
その先も。

やさしい時間のそばに。